midiru-midiru
A garment embodying the sentiments of Yonaguni.
ミディルーミディル
風に乗りどこからかともなく現れる迷い蝶
ひらひらと海に向かい舞う蝶は
もう一つの世界がどこかに存在することを連想させる。あちらとこちらを行ったり来たりしているのだ。
島を取り巻く海の碧は特別で、島はこの碧から隆起した珊瑚の島だ。母なる海、 人は海から生まれ、全てここから始まった。
深い深い碧に白い波、かつてここに幻の都が存在していたことを物語る、
そして海流に乗り様々な物語がやって来た。
この島を豊かな島へと導いた伝説の女性、イソバの住む場所には神聖な木、ガジュマルがある。力強いガジュマルから生まれる色は、とても優しいピンク、アサディいろ、母なる色。イソバはこのアサディを纏い、この世界の平和を願っていたに違いない。
女性は布を織る。大切な人を思い、この海のような深い愛と、優しい心で、愛しい人の無事を祈り布を織る。
島の植物に命をもらい、全ての工程を一人で作り上げるこの布は、島を取り巻く自然の力を借り、その力を信じて生み出される。
糸を績み、染め、織り上がる布。
想いを重ね 、祈り、 静かな形となり現れる。
愛する何かを想いながら生まれる、
それは物言わぬ 静かな想いの布なのだ。
ミディルーミディル:(与那国の方言) 深海の青々とした色の意
碧(あお)に囲まれた与那国。私は初めて与那国を訪れた時に与那国の海の碧に驚いた。八重山の海とも違う、ここにしかない瑠璃色。
ミディルーミディル – 与那国の想い布 –
なぜこの布たちがこんなに美しいのか?
それは この布は『想う』という循環で成り立っているからである。 経済だけのためではない、人が自然から恵みを受けて 感謝し、 生み出す。そしてこの感謝の気持ちは島を守る大事な祭事に繋がる、愛する人を守る。
自然への感謝と畏怖の念がベースとなり、この宇宙を、誰かを想いながら織り上がる与那国、八重山の織り。そしてこれらを支える大自然の命が目の前に存在するからこそ、この布たちがさらに尊く、美しいと感じるのだ。
この美しい布を世界に伝えるプロジェクト”ミディルーミディル”
1. 糸
①苧麻
②日本における糸の歴史
日本での 「絹糸」 の歴史は浅く、古くは主に『麻糸』が用いられていた。 古事記、日本書紀、埴輪図集、古語拾遺などの古い文献によると 日本に古くから使用されていた布繊維は、楮 (こうぞ)、葛 (くず)、山藤 (やまふじ)、科木 (しなのき)、箆木 (へらのき) などの「樹皮繊維」⇔ 麻類などの『草皮繊維』が使用されていた。古い糸として → 木の糸 (樹皮繊維) → 麻の糸 (草皮繊維) → 絹糸 (動物繊維) → 綿糸 (植物繊維) → という順序。
古くから、麻糸は租税の対象として生産され、麻繊維 (麻糸の原料) には「麻 (お)」 と『苧 (カラムシ) 』の2種があり、 今でいうと「麻 (お)」は大麻 (たいま) ⇔『苧 (カラムシ) 』は苧麻 (ちょま) を意味。
③古事記からわかる蛇神婚姻譚と苧麻の呪力
崇神天皇の条にある、オオモノヌシの神婚説話より。蛇の神様、オホモノヌシは、鍵穴から通り抜けることで蛇を暗示、それを麻糸の導きで未知の訪問者をたどる鍵としている。ほとんどの神話で未知のもの正体を探るには、全て麻糸を使う。このように苧麻にある呪力を見とめ蛇神と麻糸をあやつる機織女の神話が存在する。つまりここには苧麻の呪力、麻糸をあやつる機織女の呪力の信仰がある。このお話は折口信夫の、神の嫁にもあるように、機織女(たなばたつめ、つまり神の嫁)は麻糸をあやつり水辺で機を織りながら神(蛇体の雷神)をまつ。
絹とは反対に湿気を必要とする麻糸は乾燥に弱い、またその製糸過程では大量の冷たい水を使う、まさに苧麻の呪力を司る機織女は水辺にいるのだ。
(折口信夫、水の女)
苧麻には未知の者の正体を明かし、異界と線引きをする呪力を持っていた。
つまり、蛇体の雷神は蚕よりむしろ麻を筆頭とする植物繊維・草木布と関連を持っている。また絹の属性と麻の属性に対称性があり、『絹を織るには蚕の糸ゆえ陽熱を好み、布を織るには麻ゆえ陰熱を好。さて絹は寒に用温ならしめ、布は暑に用いて冷かならしむ。是は天然の陰陽に属する所ならんか。』
麻は水を好む。これらの話から、絹は後のものであり、日本古来のものは麻であり、呪力をもち神聖であったと考察される。
2. 色
①染色に使う植物たち
②様々な隠された色、ガジュマル
ガジュマルから生まれる色は与那国の方言でアサディと呼ばれる薄いベージュピンク色。ガジュマルは神様の木であり精霊も住む。しかし時に建物さえも破壊する威力をもつ。このような力強い木から優しい母性的なピンクが生まれる。
植物の中には幹の色を染めると花より美しい色が出るものもある、つまり見えぬ心や芯というものが色になり現れる。
http://candheart.com/blog/2020/08/15/the-color-of-banyan-trees_midiru-midiru/
③碧、瑠璃色
ミディールミディル、この意味は深海の青々とした色という意味の与那国の方言。織物の柄の表現でもこの言葉を使う、 経糸 と 緯糸 にどちらにも碧を使った縞のパターンをミディールミディルと呼ぶ。
④織りの海道
織りのパターンは外国のものから習った。この環境ゆえ、海の道による海外との交流は頻繁だったと考えられる。
3. 織る
①織ることは哲学
動かしがたい経糸に緯糸を自由に織り込む、それは自分の思いが 緯糸 となり織り込んでいく行為。この行為は運命を自ら織りなすことではないだろうか? ”自分の心の中にある風景と対話し、降りてくるものを意識化し、物質化していくこと”これで初めて一つの物語が完成する、織ることが糸や色に命を吹き込む、織ることは哲学。
4. 想い布のとは?
①まごころの存在する場所
シダディ、この布は妹(女性)が愛する人を想い、兄弟を想い、大事な人が無事に、幸せでありますようにと願い織り上がる。 ”まごころ”がその布を織る。この時、織るという行為は祈りである。
『瀕死の若者が己の生命、己の存在そのものを問われている時、文化を棄て、衣装を脱ぎ棄てる。そうするとそこに己の魂の所在が見え、妹のまごころの所在が見える。この時若者は現実の空間的な距離をこえて、自分と妹とが同じ場所にいると感ずるのではないだろうか?つまり二つの場所は実は一つの場所だったと覚える。そこで彼を助けているものはこの布、妹の想いであり、彼はこの布の場所において生死を超える』
(岩田慶治”カミの人類学”p171-172)
このシダディやテサージに与那国、八重山の織物の本質が表されている。
糸を績み、染め、織る。
”美しいものをつくるのではなく、そうして精神(こころ)こめてつくられたものが美しくなる道程を学ぶのです。その道から外れれば美は訪れないのです”。一色一生・志村ふくみ
Here, English version
http://candheart.com/blog/2020/05/27/midiru-midiruenglish/
ONLINE STORE
You can purchase the items created in the past projects from here
Photo: INO